LPICとLinuCの関係
元々は自分はLPICを受験するつもりでした。というか、それが当たり前の流れだと思っていました。ところが、スクールでLinuxの勉強をし始めて約一か月後にLPICの日本総代理を努めていたLPI-JapanからLinuCが正式に発表されました。以下、当時のプレスリリースからの抜粋です。
- LPICは世界中の国や地域を対象とした試験のため、各国のニーズの違いに対応できず、日本の市場が求める技術変化への即応や高い品質と受験者に寄り添ったサービス提供に対応することが難しい
- 従来のLPICに加えて、独自のLinux技術者認定試験「LinuC」を発表する目的は、日本の市場が求めるニーズに応える認定試験を提供することにある
- 独自のITシステムを使用することにより、受験者の方々に受験登録から受験後まで、きめ細かなサービスを提供
- LPIC取得のために学習をされている受験予定者の混乱を避けるため、初期リリースにおいては既存のLPICと同じ出題範囲にてリリースし、後に日本の市場で必要とされる最新の技術に対応した出題範囲にする予定
- 海外における技術者認定も視野に入れており、それぞれの国の市場に最適化した試験とする予定
詳しい事情はわかりませんが、実際に出題されたLPICの試験問題集が出回っており、それが問題視されていたようです。LPICに限った話ではないですが、問題集作成のため、問題暗記要員を組織化するところもあるようです。必ず試験に出る問題集に飛びつきたくなる気持ちもわかりますが、それってフェアではないですし、そんなものを使って資格を取っても何の意味もないですよね。下のLPI-Japan幹部へのインタビュー記事でも試験問題の漏洩や、その漏洩した問題の販売について言及しています。
LPICは、カナダのLPI Inc.が開発したグローバル認定試験で、試験問題はグローバルで共通です。そのため、日本で受験する人のニーズや日本企業が求める認定の信頼性に対応できていない部分があります。LinuCは、LPI-Japanが国内で試験開発から運用まで担う認定試験になります。
なぜ今、LPICに加えてLinuCを新たに作ったのか。それは、LPICだけではLPI-Japanの理念に基づく活動が継続できないと判断したからです。
残念なことに、LPICは過去に海外で試験問題の漏えい事故が起きてしまいました。今後も、世界のどこかで誰かが試験問題を暗記してネットで販売するといった事態が起こり得ます。そのような事が起きれば、企業から認定資格者への信頼が失墜してしまう。オープンテクノロジーを日本市場に根づかせて技術者を育成していくというLPI-Japanの理念に基づいた活動ができなくなってしまいます。
そのような背景から、今回、国内で試験開発と運営の全てをLPI-Japanが管理をするLinuCをリリースしました。LinuCは、受験者一人ひとりに異なった試験問題が出る仕様になっており、基本的に試験問題の漏えい事故が起こらない運用をしています。
日本のIT技術者のために作った、新Linux技術者認定試験「LinuC」の開発理念(TECH.ASCII.jp)
LPI-Japanはそうした事情からLPI本部にかねてから試験そのものの品質改善を打診していたようなのですが、本部が対応してくれそうになかったため、独自にLinux技術者認定資格をLPICと平行して提供することにしたと。
一方で、LPI本部側もLPI-Japanのスタンスに対する言い分があり、双方の意見の食い違いが顕わになっていきます。
昨年、我々は大きな変更を我々自身の組織に対して行いました。それは資格を取った技術者がメンバーとしてLPIの一員となるという部分です。それに関しては別に説明したいと思いますが、LPI-Japanと協議を行っています。また、LinuCとLPICの関係などについても協議を行っているところです。
オープンソースの資格制度を運用するLPIが日本支部を結成 LPI-Japanとの違いとは?(Think IT)
なぜ、このタイミングで日本支部を立ち上げたかということなのですが、LPI-JapanがLPIの支部となってくれることに関心を持っているならばそれでよかったのです。しかし、相談したところ関心がないことがわかりました。それでは新しい細則を展開するにあたり、自分たちでやるしかない。そうしてLPI日本支部を設立しようという流れになったのです。
本部代表が語るLPI日本支部設立の理由と、LPICの国内展開やLinuCとの関係(HRzine)
その後も、両方の試験が平行して提供されてきましたが、最終的にはLPI-JapanとLPI本部の契約も解消され、LPI-JapanがLinuCを、別組織のLPI日本支部が日本向けのLPICを提供することになったようです。
1. 現在配信されているLPICの試験問題は、不正流出に対する対策・対応において脆弱な状況にあります。そこでLPI-Japanは、LPICの公正性・信頼性の回復に向けた改善と、受験者・認定者の皆様に対して継続したサービス提供ができるようLPICの試験開発元であるLPI Inc.(カナダ)と交渉を続けて参りましたが、前向きな対応を得ることができませんでした。
2. 日本ではIT技術者向けの認定資格の取得を就職や昇進・昇格の条件とすることがあり、高い公正性と信頼性が求められます。この公平性および信頼性の確保のためにも、ブレインダンプ等による意図的な試験漏えいへの強い仕組み/運用体制の確保、技術の動向に沿った定期的な試験問題の更新、わかりやすい日本語による試験問題の提供が必要と判断し、LPI-Japanは「LinuC(リナック)」を独自に開発し、2018年3月より配信いたしました。
3. LPICの受験をご案内する上で必要となる受験者情報を管理するデータベースへのアクセスがLPI Inc.より2018年8月17日(金)に切断され、新たにLPICの受験を希望する方へのEDUCO-ID(LPIC専用)の新規発行、ならびにLPICの2018年8月16日(受験日)以降の受験結果のご案内ができなくなりました。
LPI-JapanによるLPICの取り扱い停止に関するお知らせ(LPI-Japan)
日本の今後の受験希望者と認定資格者のためのプログラムやサービスに対する投資を増やすべき時が来たと感じました。 これは、可能な限り最高の専門家のグローバルスタンダードが、日本だけでなく世界でも利用できるようにするという我々のコミットメントを反映しています。
LPI試験は、日本の多くの資格認定者を含むグローバルLPIコミュニティの関与によって正当化されています。この夏、バージョン5.0にアップデートする予定のLPIC-1 Linuxの認定について、現在フィードバックを受けています。7月初旬には、日本で初めて提供される無料ベータテストが東京で開催されます。日本で現在働いているシステム管理者が、この無料LPIC-1ベータ試験を受験することにより、試験開発プロセスに参加する事になります。
日本開発計画の一部には、認証保持者が組織の将来の方向性を決定するのに役立つプログラムやサービスが含まれます。この目標を達成するために、LPIは、伊藤健二氏を日本のコミュニケーション・ディレクターに任命することを発表します。
Linux Professional Instituteは、日本の認定資格者へのサポートを強化するための5年間の計画を発表(LPI日本支部)
LPI-JapanはLinux Professional Institute日本支部とは何らの関係はなく、LPI-Japanは本計画を含むLinux Professional Institute日本支部の活動に何ら関与を行っておりません。上記プレスリリースは、誠に遺憾ながら、「LPIC」の実施、提供およびサービスに関する独占的権利を保有しているLPI-Japanに無断で行われたものでございますが、受験生の皆様には、より良い選択肢をご提供できるように配慮してまいります。
Linux Professional Institute及びLinux Professional Institute日本支部による2018年6月7日付けのプレスリリースについて(LPI-Japan)
LinuC正式発表時は、そのニュアンスからして、てっきりLinuCがLPICに取って代わるのだと思っていたので、特に意識することなく自分はLinuC受験を選択しましたが、実際は当時のタイミングであればLPICを選択した方が吉だったのかもしれません。LPIC合格者(有資格者)が無条件でLinuCの認定がもらえたからです。試験範囲も共通でしたし、世界で通用する認証であるLPICを所有しつつ、日本に特化した資格も取得できたわけですからね。
とはいえ、それも上で指摘されたような問題を認識していなかったから。問題漏洩を指摘され世界に通用する資格の品質が問題視されている事実は無視できません。そういう意味ではLinuCを選択して良かったと思っています。認定カードももらえましたしね…。
今後はLPICとLinuCどちらを選ぶ
そんないざこをはさみつつも、LinuC新設から2年が経過した2020年3月、クラウド時代に求められる技術者の条件を提示し、それに合わせて出題範囲も改訂されたLinuCバージョン10がリリースされました。
この新バージョンは、技術者、経営や人材育成に携わっている100名以上の意見を元に、システム構築や開発、技術指導や執筆など様々な立場で活躍する50名以上のLinux専門家の協力を得て開発されています。
今のIT技術者に必要な基本技術要素はLinuxを通して学べるとして、インフラだけでなく、アプリケーションやAIを含めたすべてのITエンジニアへと対象範囲が広げられました。
最新技術への入れ替えや出題構成も見直され、より今の日本の現場に即した出題範囲となり、出題範囲項目毎に使用するコマンドやファイルも明確化されたほか、説明文も平易な記述となりました。
CCNAなどでもよく指摘されますが、海外で作成された問題がおかしな日本語に翻訳されることが多々あります。意味の通じない語彙が使われ、何を問われているのかわからなくなってしまうのは大きな問題です。LinuCは、日本人が正しい日本語で問題を作成しますので、そうした問題が起こりにくいと言うことですね。
なにはともあれ、IT系エンジニアを目指すなら、まずはLinuxの基礎を学びましょう。その最も近道がLinuC取得ということです。LinuC取得を目指すことで、IT技術者に必要な基本技術要素が身につきます。
LinuCの今後の方向性、LPI-Japanが考えるITエンジニアのためのオープンテクノロジーのキャリアマップについて、2019年7月に就任した鈴木敦夫理事長のインタビューも掲載されているので是非一度目を通してみてください。
LinuCバージョン10.0の試験開発では、パートナー企業や、LPI-Japanアカデミック認定校はもちろん、非常に多くの方々へのヒアリングとアンケートを実施し、今求められている技術スキルや人材像を明確化してきました。それをベースに開発の現場で様々な役割で活躍しているエンジニアや有識者の方々、教育や執筆されている方々と議論を重ね、しっかり内容を検討してきました。
議論の対象は新しく追加するものだけでなく、既存の試験範囲についても多くの時間が割かれ、その結果、今、現場で本当に活躍できる技術力を認定するものが出来たと思います。
今回の改定を踏まえて、LinuCは従来のLinux運用管理エンジニアのための試験という位置づけから、Linuxを軸とした全てのITエンジニア全体のための認定になっていくというイメージとしていて、「オープンテクノロジーのキャリアマップ」の中でも成長を支える認定として位置付けています。
LPI-Japan 理事長が語る2020年4月に実施したLinuC レベル1/レベル2バージョン10.0のリリースとその先(LPI-Japan)
上のインタビューでも言及されていましたが、これからエンジニアを目指すならクラウドや仮想化に関する知識は必要不可欠です。クラウドや仮想化技術といったトレンド技術を取り入れたLinuCレベル1の取得の過程でそれらの基礎的なことが学べます。
資格取得にはそこそこの出費が伴いますが、LPi-Japan自身が無償で提供する学習用教材やサンプル問題に加え、定期的に開催される各種無料セミナーを利用すればコストを下げることもできます。
さらに、LPI-Japanには多くのプラチナスポンサーやビジネスパートナー、OSS分野の専門家が支援をしており、LinuCの資格取得対策プログラムを提供する認定エンジニアスクールも増えています。
大半が有料ですが、LinuC対応の認定教材も書籍・オンラインといった種別を問わず増加の一途です。
リリースから2年を経て、LinuC取得を通じてエンジニアを目指す人を応援する仕組みが着実にできあがったと言えるのではないでしょうか。
いまだにLinuCって何?みたいなことが言われる現実はありますが、当サイトも様々な情報発信を通じて、LPI-Japanが目指す日本の技術者育成やエンジニアスキル向上の一助になればと思っています。